東南アジアで食品メーカーを見つけること自体は難しくありません。タイだけで1万社超、ベトナムで約1.1万社の食品加工企業が登録されています。難しいのは、EU食品安全基準を満たす信頼できるメーカーを見つけることです。

問題は企業数の少なさではなく、情報の非対称性にあります。 Alibabaに載っている企業は製造基盤のごく一部であり、掲載企業が必要な認証を持っているとは限りません。

この記事では、ASEANの食品メーカーを特定・評価・検証する5ステップのプロセスを共有します。80カ国以上・350件超の調査プロジェクトの経験からまとめました。


Step 1 — 政府データベースから始める

政府の産業データベースには、商業検索エンジンではアクセスできない工場レベルのデータが含まれています。

多くの国際バイヤーはGoogleやAlibabaから始めます。どちらも使えますが、英語マーケティングに投資している企業に偏ります。それは東南アジアの製造基盤のごく一部です。政府データベースを使うと全体像が見えます。

タイ

  • BOI(タイ投資委員会) — BOI促進企業のデータベースをセクター別に検索できます。URLはboi.go.th。「Promoted Companies」検索から食品メーカーを絞り込めます。BOI促進企業は税優遇を受けており、輸出能力との相関が高い傾向があります

  • DIW(タイ工場局) — 全登録メーカーの工場許可証を管理。diw.go.thからアクセス可能。食品製造は特定の産業コードで分類されています

  • タイFDA(食品医薬品局) — 食品製造ライセンスを発行。Food e-Submission System(food.fda.moph.go.th)に製造許可データがあります。インターフェースは主にタイ語

  • NFI(国立食品研究所) — 産業省傘下の非営利機関。認証取得済み・輸出対応のメーカーを特定するのに使えます

ベトナム

  • MOIT(商工省) — IFCと協力して製造企業データベースを構築中。moit.gov.vnで公開

  • VietFactory — 約5万社のプロフィールを持つベトナム最大のメーカーディレクトリ。URLはvietfactory.com

  • Fact-Link Vietnam — 4,490社の登録製造企業をカバーするビジネスディレクトリ。URLはfact-link.com.vn

  • Companies House Vietnam — 企業名またはエンタープライズコードで検索可能。計画投資省の届出に基づくデータ。URLはcompanieshouse.vn

インドネシア

  • BKPM(投資省) — 食品製造を含む産業セクター別の投資データを管理。現在は「投資・下流産業省」に改編

  • BPOM(食品医薬品庁)登録ポータルe-reg.pom.go.id製品照合はproductlist.id。コードはML(輸入)・MD(国内)・SP(規制指導)

  • Kemenperin(産業省) — 製造企業データを含む産業ディレクトリを公開

現地語(タイ語・ベトナム語)が読めない場合、これらのデータベースを活用するには現地パートナーかリサーチサービスが必要です。


Step 2 — 業界ネットワークで候補を広げる

業界団体・展示会・B2Bプラットフォームはそれぞれ異なる製造基盤にアクセスできます。3つを組み合わせて使うのがいちばん効率的です。

業界団体(会員名簿に無料でアクセスできる)

団体名 得られる情報
Thai Food Processors’ Association(TFPA) タイ 会員リストと企業プロフィール。URLはthaifood.org
Vietnam Food Association(VFA) ベトナム ベトナムの食品輸出企業へのアクセス。URLはe.vietfood.org.vn
GAPMMI(インドネシア食品飲料工業会) インドネシア 400社超の会員企業。URLはgapmmi.or.id
ASEAN Food & Beverage Alliance(AFBA) ASEAN全域 ASEAN10カ国の会員。URLはafba.co
Food Industry Asia(FIA) アジア(本部シンガポール) 13カ国130社超。規制情報はregulatoryhub.foodindustry.asia
FMM(マレーシア製造業連合会) マレーシア 検索可能な会員リスト。第51版のFMMディレクトリ公開中。URLはfmm.org.my

展示会(メーカーと直接会える場)

一度に複数のメーカーに会える最も効率的な方法です。

展示会名 開催地 2026年日程 規模
THAIFEX-Anuga Asia バンコク 5月26〜30日 ASEANのメイン食品展。USDA公認
FHA — Food & Hospitality Asia シンガポール 4月21〜24日 115カ国2,750社超・来場者8万人超
Vietfood & Beverage ホーチミン市 8月6〜8日 第30回、出展者1,000社
Food & Drinks Malaysia by SIAL クアラルンプール 7月21〜23日 東南アジア最大のB2B食品展
SIAL InterFOOD ジャカルタ 11月4〜8日 インドネシア主要食品加工展示会
Philippine Food Expo マニラ 4月17〜19日 出展面積8,300㎡

ASEANで食品調達先を探すなら、THAIFEX-Anuga Asiaが最重要イベントです。1つだけ参加するならここです。

B2Bプラットフォーム

  • ThaiTrade.com — タイ国際貿易振興局(DITP)の公式マーケットプレイス。タイ輸出企業の認証あり

  • Alibaba — ASEAN掲載数は多いが品質にばらつき。「Verified Supplier」と「Trade Assurance」でフィルタリングを

  • VinaSources — ベトナム特化のサプライヤープラットフォーム。認証済み供給者を掲載。URLはvinasources.com

  • Global Sources — アジア特化のB2Bプラットフォーム。認証済みサプライヤープログラムあり。展示会への出展企業も多い


Step 3 — 認証と輸出実績でフィルタリングする

市場が求める認証を持っていないメーカーの評価に時間を使わないことが重要です。認証で先にフィルタリングし、それからほかの要件を評価します。

EU市場参入に必要な認証

認証 なぜ重要か 検証データベース
BRC(BRCGS) 英国・欧州大陸の小売業者の多くが要求。EU食品認定の39% directory.brcgs.com(無料「Directory Lite」アカウント、55,000サイト超)
IFS ドイツ・フランス・イタリア・スペインで最も普及。EU食品認定の47% ifs-certification.com(ログイン必要、20,000証明書超)
FSSC 22000 GFSI認定・ISO統合型。グローバル採用が増加中。EU認定の14% fssc.com/public-register/(毎日更新、無料)
HACCP EU規則852/2004で法的義務。最低限の要件 グローバルな統一レジスターなし。発行認証機関で確認
ISO 22000 国際的な食品安全マネジメントシステム規格 iafcertsearch.org(企業名または証明書番号で無料検索)

証明書が本物かどうかの確認方法

  1. 認証スキームの公開レジスター(上記リンク)にアクセスする

  2. 企業名または証明書番号で検索する

  3. スコープ(範囲)が必要な食品カテゴリをカバーしているか確認する

  4. 有効期限を確認する。期限切れは認証を失っている可能性がある

  5. **認証機関(CB)**がIAF CertSearch(iafcertsearch.org)で認定されているか確認する

工場から提供されたPDF証明書だけを信用しないことが大切です。証明書は偽造・期限切れの可能性があります。必ず公開レジスターと照合してください。

その他のフィルタリング基準

  • EU輸出実績 — EU向けの過去納品先または輸出先のリストを要求する。EU向け輸出経験がない工場はコンプライアンス対応の学習コストが高い

  • 生産能力 — 工場が自社の量をこなせるか確認する。月次生産能力はトン数で確認する(「対応できます」だけでは不十分)

  • 最小ロット数量(MOQ) — 工場により大きく異なる。タイユニオンのような大手は高め、小規模OEM専門工場は低い場合も

  • R&D体制 — カスタム処方が必要な場合、工場に社内R&Dチームがあるか確認する


Step 4 — 工場監査を実施する

デスクリサーチで認証は確認できますが、実際の運用は現地でしか確認できません。最初の発注前に直接訪問か第三者監査をする予算を確保しておくことをすすめます。

工場監査で確認すること

  1. 人員と衛生 — ヘアネット・手袋・手洗いステーション・来訪者プロトコル。SOPが紙に書かれているだけでなく、実際に守られているか

  2. 施設と清潔さ — 製造エリアの清潔さ、害虫駆除の証拠(ベイトステーション・捕虫機)、廃棄物管理

  3. 工程管理 — 温度管理ログ、交差汚染防止(生食エリアの分離)、アレルゲン管理プロセス

  4. 文書化とトレーサビリティ — HACCPプラン・バッチ記録・サプライヤー承認記録・リコール手順。数時間以内に原材料まで遡れるトレース体制があるか

  5. 原材料の管理 — 入荷検査手順、保管条件(温度・湿度)、サプライヤー認定記録

  6. 検査能力 — 社内微生物試験室・保存サンプル管理・外部試験機関との契約

プロセスを止めるべきレッドフラグ

  • 偽造または古い文書

  • HACCPプランがない、または長年更新されていない

  • 期限切れまたは未認定の認証

  • 抜き打ち訪問を嫌がる

  • バッチのトレーサビリティシステムがない

  • SOPが壁に貼られているのに作業者が衛生プロトコルを守っていない

  • 製造エリアでの害虫の痕跡

ASEAN対応の第三者監査会社

直接訪問できない場合は第三者監査を依頼できます。

会社名 本社 ASEAN展開 監査費用目安
SGS ジュネーブ ASEAN主要国全域 スコープにより変動
Bureau Veritas パリ 広域(世界1,400拠点超) スコープにより変動
Intertek ロンドン タイ・ベトナム・インドネシア・フィリピンに試験所 スコープにより変動
TUV SUD ミュンヘン ASEAN地域事務所あり スコープにより変動
QIMA 香港 東南アジアに強い 1回700ドル〜

食品安全監査の費用は通常700〜2,000ドル(スコープと工場規模による)。倫理・社会監査(SMETA)はさらに約800ドル追加。汚染インシデントやEU国境排除のコストと比べれば小さな投資です。


Step 5 — 小ロットから始めてスケールする

長期契約を結ぶ前にトライアルオーダーを入れる。製品・コミュニケーション・物流チェーンをまず検証します。

トライアルオーダーのチェックリスト

  • 製品品質 — サンプルがスペックと一致しているか。SGS・Intertek・Bureau Veritas等の認定第三者試験所でテスト(ASEAN全域に試験所あり)

  • コミュニケーション対応 — メールへの返信速度と要件の理解度は?繰り返し説明しなくても通じるか

  • 書類の質 — 船積み書類・分析証明書(COA)・通関書類が正確で完全か

  • 物流の信頼性 — 予定通りに届いたか。コールドチェーン要件は輸送全体で維持されたか

  • 包装とラベリング — EU表示規制・アレルゲン表示・言語要件を満たしているか

EU向けASEAN輸出でよく発生する問題

EU RASFF(食品安全迅速警告システム)のASEAN輸出データから見えるパターンです。

  • カビ毒汚染(アフラトキシン中心) — ASEAN食品でEUへの通報件数が最も多い食品安全問題

  • 農薬・動物薬の残留 — ベトナムはEU違反件数が2024年に60%増加(38件→61件)

  • ハーブ・スパイス — ASEAN食品安全通報全体の15%を占める

  • ナッツ・種実・魚介・果物・野菜 — 合計で食品安全報告全体の3分の2超

タイはASEAN食品不正通報のEU向け32%を占めます。インドネシアは指摘製品の95%が国境で排除。ただしこれはデューデリジェンスが不可欠だということであり、これらの国が危険だということではありません。


継続的にモニタリングするためのリソース

データベース

アドバイザリー機関

  • ProFound(オランダ)— 途上国からの食品調達専門のマーケット参入アドバイザー。30年超で3,000社超の企業を国際市場に導いた実績。URLはthisisprofound.com

  • USDA Foreign Agricultural Service — 国別の食品産業レポートを公開。THAIFEXなどの展示会も公認。URLはfas.usda.gov

  • Food Industry Asia(FIA) — アジア13カ国の食品規格をカバーする規制ハブ。URLはfoodindustry.asia


【出典】

  • BOI Thailand「Food Industry Report」(タイの工場数・投資優遇)

  • MOIT Vietnam「Database of Vietnamese Manufacturing and Supporting Industries」2024年

  • BPOM Indonesia 公式ポータル(登録システム)

  • Thai Food Processors’ Association、thaifood.org(会員リスト)

  • GAPMMI(インドネシア食品飲料工業会)、gapmmi.or.id

  • AFBA(ASEAN Food & Beverage Alliance)、afba.co

  • THAIFEX-Anuga Asia 公式サイト、thaifex-anuga.com

  • USDA FAS「THAIFEX-Anuga Asia 2026 Trade Show Announcement」

  • BRCGS「Directory」https://directory.brcgs.com/

  • FSSC 22000「Public Register」https://www.fssc.com/public-register/

  • IFS「Certification Database」https://www.ifs-certification.com/

  • IAF CertSearch https://www.iafcertsearch.org/

  • PLOS ONE「Incidence of fraud and adulterations in ASEAN food/feed exports: A 20-year analysis of RASFF’s notifications」2021年

  • VietnamNet「Vietnam must tighten food safety controls after 130 EU export warnings」2024年

  • Sedex「Food & Beverage Supply Chains Insights 2025」

  • ProFound 公式サイト、thisisprofound.com


調査者について

木下隆志 — 株式会社タイトンマイ代表

  • 大阪大学大学院 経済学研究科 修士課程修了

  • シャープ株式会社の調達部門に8年間勤務

  • うち2年間はタイ工場に駐在、調達課長として現地スタッフのマネジメントを担当

  • 日本人管理職は自分一人の環境で、英語・タイ語での調達実務を経験

  • 独立後、80カ国以上・10,000社以上の企業調査を実施


https://taitonmai.co.jp/column/20260304_02/