中国のEC市場は2024年に約327兆円に達し、世界のEC売上の半分を占めています。 3年前にこのテーマで記事を書いたとき、アリババが50%以上のシェアを握っていました。いわゆる「一強体制」です。

ところが2024年の勢力図は、まるで別の市場を見ているようでした。Douyin(抖音、TikTokの中国版)がゼロからGMV 3.5兆元の巨大ECに成長し、Temuは世界90カ国以上に展開。Pinduoduo(拼多多)はアリババの時価総額を一時逆転しました。

この3年間で何が変わったのか。最新データをもとに整理してみます。


中国EC市場は世界のEC売上の「半分」を占める

2024年の中国オンライン小売売上高は15兆5,225億元(約327兆円)。米国の約2.5倍、日本の約12.5倍の規模です。

EC市場規模(2024年) EC化率
中国 15.5兆元(約327兆円) 26.8%
米国 1.19兆ドル(約181兆円) 16.1%
日本 26.1兆円 9.8%

中国と米国だけで世界のEC売上の約7割を占めています。日本のEC化率9.8%と比べると、中国の26.8%がいかに高いかがわかります。

EC化率は2022年のゼロコロナ政策下で27.2%まで上昇した後、オフライン消費の回復により2025年は26.1%とやや低下しました。ただしEC売上高そのものは増え続けており、2025年は15兆9,722億元(約332兆円)に達しています。


中国ECプラットフォーム・ランキング — 「一強」から「五強」へ

アリババ(Taobao/Tmall)のシェアは3年で52%から約40%に低下しました。5つのプラットフォームが競い合う時代に入っています。

順位 プラットフォーム 2024年GMV 前年比 特徴
1位 Taobao/Tmall(アリババ) 約8兆元(約1.1兆ドル) 1%未満 依然として最大。成長は停滞
2位 Pinduoduo(拼多多) 約5.2兆元(約6,550億ドル) +14.9% 低価格戦略でJDを逆転
3位 JD.com(京東) 約4.5兆元(約6,200億ドル) +6.8% 自社物流に強み
4位 Douyin EC(抖音電商) 約3.5兆元(約4,900億ドル) +30% 世界第3位のマーケットプレイスに
5位 Kuaishou(快手) 約1.39兆元(約1,900億ドル) +15.0% 地方都市・農村に強い基盤

注 — アリババは2022年以降GMVを非公開。Tmall 8兆元はECDB等の推計値。Douyin ECはByteDance非上場のためメディア報道値。

3年前のランキングにはDouyinもKuaishouもいませんでした。この変化のスピードには正直驚きます。


Pinduoduoの逆転劇とDouyinの急成長

2023年11月、Pinduoduoの時価総額がアリババを一時逆転しました。「格安EC」がECの王者を超えた瞬間です。

自分が中国にいたころ、同僚にPinduoduoでチョコレートの共同購入に誘われたことがあります。「3人集めると半額」という仕組みで、WeChatのグループチャットにリンクが飛び交っていました。当時はまだニッチなアプリという印象でしたが、あの「とにかく安い」というポジションが、中国経済の減速で節約志向が強まる中で完全にはまった形です。

逆転の要因はもうひとつあります。海外版のTemuが爆発的に成長し、PDD Holdings全体の売上を押し上げました。ただし2024年後半には株価が急落し、アリババが時価総額で再逆転しています。

Douyin EC(抖音電商) は「興趣電商」(興味ベースEC)と呼ばれるモデルで急成長しました。ユーザーが動画やライブ配信を見ているうちに、自然と購買が起こる設計です。2024年にはGMV 3.5兆元に到達し、世界第3位のマーケットプレイスに。

特に注目すべきは、「棚卸型EC」(検索・カテゴリ閲覧型)の比率が40%まで上がっている点です。ライブコマース専業から総合ECプラットフォームへの転換を進めており、Taobao/Tmallの直接的な競合になりつつあります。


越境ECの台風の目 — TemuとTikTok Shop

越境ECでは、Temu(GMV 708億ドル)とTikTok Shop(GMV 643億ドル)が爆発的に成長しています。

プラットフォーム 展開国数 2024年GMV/売上 特徴
Temu 90カ国超 GMV 708億ドル(前年比約4倍) 超低価格。PDD Holdings傘下
TikTok Shop 12カ国 GMV 643億ドル(前年比約2倍) ライブコマース融合
SHEIN 150カ国超 売上380億ドル ファッション特化
AliExpress 200カ国超 部門売上149.5億ドル 「Choice」モデルで再成長
Tmall Global 中国向け シェア約38%(越境輸入B2C) 海外→中国のインポートモデル

Temuは2022年9月の米国ローンチからわずか2年で708億ドルのGMVに到達しました。ただし2025年8月に米国がde minimis免税を撤廃し、DAU(デイリーアクティブユーザー)が52%減少しています。欧州シフトを加速させており、今後の成長の持続性には不透明感もあります。

SHEINはバリュエーション(企業価値評価)がピーク時の1,000億ドルから約100億ドルまで急落しました。IPOもNY→ロンドン→香港と二転三転しています。

一方でTikTok Shopは東南アジアで456億ドル、米国で151億ドルを達成。2025年にはブラジル・日本など6つの新市場に拡大予定です。


ライブコマースは「成熟フェーズ」に突入した

中国のライブコマース市場は2024年に約5.3兆元規模。ただし成長率は+41%(2023年)から+8.3%(2024年)に急減速しました。

ライブコマースGMV 前年比
2022年 3兆5,000億元 +48%
2023年 4兆9,168億元 +41%
2024年 5兆3,256億元 +8.3%

EC売上全体に占めるライブコマースの比率は34.3%。3件に1件がライブ経由で売れている計算です。プラットフォーム別では、Douyinが47%、Kuaishouが27%、Taobao Liveが約20%を占めます。

注目すべき変化は、トップKOL(インフルエンサー)依存からの脱却が進んでいることです。Douyinではライブ配信の70%が店舗(マーチャント)主導に転換しました。KOLに売上の20〜50%を手数料として支払うモデルは持続が難しく、AI仮想ライバー(24時間配信可能、コスト30〜70%削減)の導入も始まっています。


売れ筋カテゴリー — ファッション34%、家電22%

中国EC最大のカテゴリーはファッション・アパレル(約34%、約3,300億ドル規模)。2位は家電(約22%)、3位に食品・飲料が続きます。

越境EC(中国への輸入)では、以下のカテゴリーが人気です。

  • 美容・パーソナルケア(約28%) — スキンケアが中心

  • 食品・農産物(約15%) — 健康食品・輸入食品

  • 医薬品・健康サプリ(約14%) — 日本の酵素・ビタミン系も主力

  • ベビー用品・粉ミルク(約13%) — メリーズなど日本製おむつが人気

2024年のダブル11(独身の日)セールでは、全体の売上が約1.44兆元(前年比+26.6%)に達しました。589ブランドが1億元を超え、ユニクロがアパレル首位で10億元超を達成しています。


日本企業は「撤退」か「深耕」かの岐路に立つ

中国進出の日本企業数はピーク時の14,394社(2012年)から13,034社(2024年)に減少。資生堂は純損失108億円を計上し、BAUM・IPSAを中国から撤退させました。

一方で花王のCurelやfreeplusはダブル11で好調を維持し、9四半期ぶりの増益を達成。ユニクロも不採算50店を閉鎖しつつ、ダブル11ではアパレル首位の売上を記録しています。

越境EC経由で中国消費者が日本から購入した金額は2兆6,372億円(前年比+8.5%)。訪日観光客の44%が帰国後に越境ECで再購入しているというデータもあり、インバウンドとECの連動にはまだ伸びる余地がありそうです。

ただし、C-beauty(中国国産ブランド)が化粧品市場シェア55.2%を占めるまでに成長しており、日本ブランドにとっては逆風が続いています。82%の日本企業が「地政学リスクが高まっている」と回答する中(PwC Japan調査)、中国市場を完全に切り捨てるのではなく、ASEAN・インドへの分散投資を進める「チャイナプラスワン」が主流になりつつあるのではないでしょうか。


【出典】

  • 中国国家統計局(NBS)「Total Retail Sales of Consumer Goods」各年プレスリリース(2024年1月、2025年1月、2026年1月)

  • eMarketer「Worldwide ecommerce sales to break $6 trillion」2024年

  • 経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査」2025年8月

  • ECDB「Douyin Grew by 33.5% in 2024」2025年

  • KrASIA「Douyin reshapes strategy to cut merchant costs as GMV grows」2025年

  • Kuaishou IR「Fourth Quarter and Full Year 2024 Financial Results」2025年3月

  • Find Japan「中国越境EC市場動向【2025年版】」2025年

  • Bloomberg「Alibaba’s Value Slips Below PDD’s in Landmark for China」2023年11月

  • 帝国データバンク「中国進出の日本企業、ピークから1千社・1割減」2024年

  • PwC Japan「企業の地政学リスク対応実態調査 2025」2025年

  • Premium Beauty News「Shiseido posts net loss in 2024 amid China consumption turmoil」2025年

  • Fortune Asia「Uniqlo owner warns of ‘turning point’ in China strategy」2024年7月

  • Diamond Online「資生堂が中国リスクで急失速、花王と明暗」2024年

  • Statista「China: GMV of e-commerce livestreaming 2024」2024年

  • 網経社「2024年中国直播电商市場数拠報告」2025年

  • PS Market Research「China E-Commerce Market Report」2024年

  • Queue-it「Singles’ Day Statistics 2026」2026年


調査者について

木下隆志 — 株式会社タイトンマイ代表

  • 大阪大学大学院 経済学研究科 修士課程修了

  • シャープ株式会社の調達部門に8年間勤務

  • うち2年間はタイ工場に駐在、調達課長として現地スタッフのマネジメントを担当

  • 日本人管理職は自分一人の環境で、英語・タイ語での調達実務を経験

  • 独立後、80カ国以上・10,000社以上の企業調査を実施


https://taitonmai.co.jp/column/20260330_01/