生成AIの調査が浅くなる原因は7つあります。そのうち6つは、使い方を変えるだけで越えられます。残りの1つも、あるプロンプトでかなりカバーできます。
前回の記事(「生成AIの調査はなぜ浅いのか」)で、生成AIの調査に7つの壁があると整理しました。今回はその越え方を書いてみます。
特別なスキルは要りません。AIへの指示の出し方を変えるだけで、調査の深さがかなり変わります。一部はMCPサーバーというツールを使う方法も紹介しますが、使わなくてもできることの方が多いです。
7つの壁は、ほぼ全部越えられる
前回の記事で整理した7つの壁と、それぞれの越え方を一覧にしました。
| # | 壁 | 越え方 | 必要なもの |
|---|---|---|---|
| 1 | 情報源の選び方がわからない | サプライチェーンを描いて推定させる | プロンプトの工夫 |
| 2 | 検索クエリが雑 | フレーズ検索と現地語を指示する | プロンプトの工夫 |
| 3 | Google検索を使っていない | MCPサーバーでGoogle APIを使う | ツール導入 |
| 4 | ページが読めない / DB操作不可 | 「読めなかったら教えて」と指示する | プロンプトの工夫 |
| 5 | IPアドレスの地域ブロック | 迂回路を探す(Wayback Machine等) | 知識 + 手作業 |
| 6 | PDFの拾い読みができない | 「目次を先に読んで」と指示する | プロンプトの工夫 |
| 7 | トークン切れで止まる | 調査計画を立てさせてから動かす | プロンプトの工夫 |
7つのうち5つは「プロンプトの工夫」だけで越えられます。順番に書いていきます。
壁1「情報源の選び方がわからない」の越え方 — サプライチェーンを描いて情報源を見つける
AIは「どこにデータがあるか」を知りません。でもサプライチェーンを描かせると、各段階にある規制・認証・届出の存在に気づけます。
前回の記事では「この壁だけはプロの経験が必要」と書きました。半分撤回します。以下のプロンプトで、かなりのところまでカバーできることに最近気づきました。
> ○○業界のサプライチェーンを川上から川下まで描いてください。各段階で必要な認証・許認可・届出を特定し、管轄機関とデータベースの有無を調べてください。
たとえば「タイの食品製造業」を指定すると、こんな流れが出てきます。
- 原料調達 → 農業局(DOA)の農薬登録DB
- 製造 → 工場局(DIW)の工場登録DB、FDA食品許可
- 輸出 → 商務省(MOC)の輸出者登録、原産地証明
- 輸入(相手国) → 相手国のFDA許可、通関データ
各段階に管轄機関があり、管轄機関にはデータベースがある。この構造が見えるだけで「次にどこを調べるか」の見当がつきます。

自分が最近やった調査がまさにこれでした。「タイの商社が、自社で製造していない製品でASEAN原産地証明(Form D)を取得できるか」という調査です。
最初はそのままAIに質問して、あまり深い結果が出ませんでした。そこで業務プロセスを描いてみました。
```
製造者 → 商社(輸出者) → フォワーダー → タイ税関 → 船 → ベトナム税関 → 輸入者
```
このプロセスを見た瞬間、「タイ側はDFT(外国貿易局)がForm Dの発行機関だ」「ベトナム側の税関法も確認しないとダメだ」と気づきました。ATIGAの原文、タイDFTのガイドライン、ベトナムの通達。3つの法源から明確な結論にたどり着けたのは、業務プロセスの全体像が見えたからです。
サプライチェーンや業務プロセスを先に描く。AIが得意な作業です。 全体像ができたら「ここに何かありそう」という勘が働きやすくなります。
医薬品の調査でも同じ構造が使えます。「サプライチェーンを描いて」と言えば、原薬の調達→製造→品質検査→薬事申請→流通→販売のような流れが出てくる。「薬事申請」の段階を見て「ここに薬事法の管轄機関とデータベースがあるはず」と気づける。情報源の推定が、知識ではなく構造から導けるようになります。
壁2「検索クエリが雑」の越え方 — 検索クエリは自分で組み立てる
AIに検索を任せると単純な英語キーワードになりがちです。フレーズ検索と現地語の指示を加えるだけで、見つかる情報の幅が変わります。
やることは2つだけです。
1つ目 — 大事なキーワードはフレーズ検索にする
> 「"battery charger" "UL certified" manufacturer」で検索してください
ダブルクォーテーションで囲むと完全一致になります。AIに任せると単語をバラバラに検索しがちなので、絶対に引っかけたい語句はフレーズにしてあげた方が精度が上がります。ANDとORを組み合わせるともっと強力です。

2つ目 — 「現地語で調べて、日本語で答えて」と言う
> タイの食品工場についてタイ語で検索してください。結果は日本語でまとめてください。
これだけでAIは「โรงงานอาหาร」(タイ語で食品工場)のようなクエリで検索してくれます。何も言わないと英語で検索されるのが初期設定なので、この一言を添えるだけで見つかる情報が一気に広がります。
自分も最初のころ、タイの企業名を英語で検索して3時間ムダにした経験があります。タイ語に切り替えた瞬間、求めていた情報が1ページ目に出てきました。
壁3「Google検索を使っていない」の越え方 — 検索エンジンを自分で選ぶ
ChatGPT、Perplexity、CopilotはGoogle以外の検索エンジンを使っています。日本語やアジア言語では、Googleの方が精度が高い場面が多くあります。
Google検索を使いたいなら、GeminiがGoogle検索を内蔵しています。ただし正直なところ、Geminiでもアジア言語の検索結果にばらつきがあると感じています。Google検索なのになぜ精度が落ちるのか。AIが組み立てるクエリや、結果のフィルタリングの過程で情報が落ちているのかもしれません。
より確実な方法として、MCPサーバーがあります。
MCPサーバーとは
MCPサーバーは、AIに外部ツールを接続する仕組みです。 2024年にAnthropicが公開し、現在はOpenAIも採用しています。
普段のAIは、テキストのやりとりしかできません。MCPサーバーを設定すると、Google検索・ブラウザ操作・PDF読み取りなどのツールをAIが直接使えるようになります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| MCP | Model Context Protocol。AIとツールの接続規格 |
| MCPサーバー | 個々のツール(Google検索、ブラウザ操作など) |
| 対応するAI | Claude Desktop、Claude Code、ChatGPT(一部)など |
| 導入の手間 | 設定ファイル(JSON)を1つ編集するだけ |
MCPサーバーでGoogle検索APIを使えば、ChatGPTやClaudeからでもGoogleの検索結果を直接取得できます。壁4〜6でもMCPサーバーが出てくるので、マスターしておきたい越え方です。
壁4「ページが読めない」の越え方 — 「読めなかったら教えて」と言うだけで変わる
JavaScriptのページやデータベースの操作画面は、AIが読めないことがあります。「読めないページがあったら教えてください」と一言添えるだけで、対処しやすくなります。
AIは読めないページに遭遇しても、黙って次に進んでしまうことがあります。結果だけ見ると、そのページの情報が「存在しなかった」のか「読めなかった」のかわかりません。
> 以下のURLの内容を確認してください。もしページが読み込めない場合は、そのことを教えてください。
これだけで「このページはJavaScriptで動的に生成されているため、内容を取得できませんでした」のような報告が返ってきます。読めなかったとわかれば、自分でブラウザを開いて確認できます。
ChatGPTのブラウザ機能でもJavaScriptページが読めないことはあります。確実に読みたい場合は、壁3で触れたMCPサーバーにPlaywright(ブラウザ自動操作ツール)を設定する方法があります。JavaScriptページでもフォーム入力やボタンクリックまで自動化できます。
壁5「IPアドレスの地域ブロック」の越え方 — アクセスできないサイトには迂回路がある
AIのサーバーはおそらく米国にあるため、アジアの現地限定サイトにアクセスできません。直接の突破は難しくても、迂回路はいくつかあります。
1. Wayback Machineを試す
> このサイトにアクセスできない場合、Wayback Machine(web.archive.org)で過去のページが保存されていないか確認してください。
インターネット・アーカイブが過去に収集したページが残っていることがあります。アジアの政府サイトの収録率は正直あまり高くありませんが、ダメもとで試す価値はあります。過去のバージョンでも手がかりにはなります。

2. Facebookページを探す
意外かもしれませんが、アジアの政府機関や業界団体はFacebookページを積極的に運営しています。本サイトに地域ブロックがかかっていても、Facebookページは世界中から閲覧できます。
Facebookページ自体はAIに読ませるのが難しいので、自分でページを見て、必要な情報をコピーしてAIに渡す形になります。断片的ではありますが、手がかりになることがあります。
もしくはMCPサーバーにPlaywrightを設定すれば、Facebookのトップページぐらいは閲覧できます。
3. 自分で見てテキストを渡す
最終手段ですが、いちばん確実です。VPN等で現地のIPアドレスに切り替えてサイトを開き、必要な部分をコピーしてAIに渡す。自分がタイの政府サイトでよくやる方法です。AIに読めないなら、人間が読んで渡せばいい。単純ですが確実です。
壁6「PDFの拾い読みができない」の越え方 — PDFは「全部読むな」と指示する
AIにPDFを渡すと1ページ目から全文を読み始めます。「まず目次を読んで、必要な章だけ読んで」と指示するだけで、欲しい情報にたどり着きやすくなります。
100ページのPDFを上から全部読ませると、20〜30ページあたりでトークンが足りなくなります。自分が読むときも全ページは読みません。まず目次を見て、必要な章だけ開きます。
AIにも同じことをやらせます。2段階で指示するのがコツです。
> ステップ1 — このPDFの目次または章立てを教えてください。詳しい内容はまだ読まないでください。
目次が返ってきたら、必要な章だけ指定します。
> ステップ2 — 第3章(45〜60ページ)の内容を詳しく教えてください。他の章は読まなくて大丈夫です。
「詳しい内容はまだ読まないで」「他の章は読まなくて大丈夫」がポイントです。 明示的に止めないと、AIは律儀に全ページ読もうとします。
MCPサーバーにはPDFリーダーもあります。pdf-reader-mcpというツールを使えば、「ページ1〜5と45〜60だけ抽出」のようにページ範囲を指定できます。100ページ丸ごとの読み込みが不要になるので、トークンの節約効果が大きいです。
壁7「トークン切れで止まる」の越え方 — 調査計画を立てさせてから動かす
AIはトークンの配分が下手で、核心に近づいたところで止まります。最初に調査計画を立てさせて、ステップごとに実行させると、この問題をかなり回避できます。
いちばん効くのは「いきなり全部調べさせない」ことです。
> 以下のテーマを調査したいです。「タイの食品製造業の主要プレーヤーと市場構造」
>
> まず調査計画を立ててください。サブトピックを5つ以内にリストアップし、優先度をつけてください。回答はまだ不要です。計画だけ出してください。
計画が返ってきたら、1つずつ実行させます。
> 計画のサブトピック1について調べてください。結果は箇条書きで、500字以内にまとめてください。
「回答はまだ不要」「500字以内」が重要です。 制限をかけないと、AIは調査計画の段階で長い説明を書き始め、本題のトークンを使い果たします。
もう2つ、実践的なコツがあります。
こまめに結果をまとめさせる
> 調査の進捗を随時報告してください。新しい情報が見つかるたびに、それまでの発見を箇条書きで整理してから次に進んでください。
途中経過をテキストにしておくと、万が一トークンが切れても、そこまでの成果が手元に残ります。
会話が重くなったら引き継ぐ
> ここまでの調査結果を箇条書きで要約してください。まだ調べていないことも書いてください。
この要約を新しいチャットにコピーして「続きを調べてください」と言えば、トークンのリセットになります。1テーマ1会話の原則で、異なるテーマは最初から会話を分けておくのも有効です。
8割は自分で越えられる
7つの壁の越え方をすべて書きました。プロンプトの工夫とMCPサーバーで、ほとんどの壁は越えられます。
| # | 壁 | 越え方 | 自分でできる度 |
|---|---|---|---|
| 1 | 情報源がわからない | サプライチェーンを描く | ★★★★☆ |
| 2 | 検索クエリが雑 | フレーズ検索 + 現地語 | ★★★★★ |
| 3 | Google検索でない | MCPサーバー導入 | ★★★☆☆ |
| 4 | ページが読めない | 「教えて」と指示 + MCP | ★★★★☆ |
| 5 | 地域ブロック | 迂回路を探す | ★★★☆☆ |
| 6 | PDFが読めない | 「目次から」と指示 | ★★★★★ |
| 7 | トークン切れ | 計画 → 分割実行 | ★★★★★ |
ただし、壁を越えた先にまだ仕事があります。
- データベースを実際に操作してデータを取り出すこと
- 取れたデータを読み解いて、意味を見出すこと
- 英語・中国語・タイ語で一次情報を裏取りすること
- 100ページのPDFから本当に必要な3ページを見極めること
方法を知っていても、実行するにはそれなりの時間と試行錯誤がいります。自分は、この作業をやり続けて、ようやく速くなりました。
壁を越える方法は全部書きました。「やり方はわかったけど全部やる時間がない」という場合は、当社で調査代行もやっています。
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