Googleマップは地図アプリではありません。企業リストアップの情報源です。工業団地名や業種名を入力して地図上を検索すると、Webサイトを持っていない現地企業まで見つかります。

「海外企業のリストアップ」と聞いて、Googleマップを使う人は少数派です。ほとんどの人はGoogle検索、LinkedIn、業界データベースから始めます。それ自体は間違っていません。

しかし、それだけでは見つからない企業が大量にあります。とくにASEANの中小メーカーは、英語のWebサイトを持っていなくても、Googleマップには登録されているケースが多いのです。

この記事では、80カ国以上の企業調査を手がけてきた筆者が、Googleマップを企業リストアップに使う具体的な方法を書いてみます。便利な点だけでなく、カテゴリの信頼性問題など限界についても正直に書きます。

Googleマップにはどんな企業情報が載っているのか

Googleマップには全世界で2億件以上のビジネスが登録されています。Webサイトを持たない企業でも、Googleマップには登録されていることが多くあります。

これはLinkedInの登録企業数を大きく上回る数字です。

企業リストアップの観点で見ると、Googleマップには以下の情報が入っています。

情報企業調査での活用
企業名(現地語+英語)現地語の正式名称がわかる。Web検索の手がかりになる
住所工業団地内かどうか、他社工場との位置関係がわかる
電話番号連絡先として直接使える。Webサイトがない企業でも電話番号はある
Webサイトある企業とない企業がある。ない企業こそGoogleマップの価値
写真工場の外観、設備、製品の写真が投稿されていることがある
口コミ取引先や従業員の書き込みから、事業内容の手がかりが得られる
ビジネスカテゴリ「製造業」「食品加工」などの分類。ただし精度に問題あり(後述)

重要なのは、Webサイトを持たない企業でもGoogleマップには載っているという点です。タイやベトナムの中小工場の多くはWebサイトを持っていませんが、Googleマップには工場名と住所が登録されています。Google検索で見つからない企業が、地図検索では見つかります。

なお、中国本土ではGoogleマップがブロックされているため、この手法はそのまま使えません。中国の企業調査では、百度地図(Baidu Maps)や高徳地図(Amap)といった中国製の地図サービスに加え、企查查・天眼查などの企業データベースを組み合わせる必要があります。本記事ではGoogleマップが有効なASEAN・南アジアを中心に共有します。

工業団地の周辺を地図で検索するのが最も効率的

Googleマップで企業を探す最も効率的な方法は、工業団地名で検索してその周辺を探索することです。 工場は工業団地に集中しているため、地図の力が最も発揮されます。

具体的な手順を説明します。

手順1 — 対象国の主要な工業団地を特定する

まず、対象国の工業団地を調べます。タイなら東部臨海地域(チョンブリ県・ラヨーン県)、ベトナムならビンズオン省やドンナイ省の工業団地が製造業の集積地です。

主要な工業団地の例を挙げます。

代表的な工業団地集積している業種
タイアマタナコン、WHA東部臨海、ナバナコン自動車部品、電子部品、食品
ベトナムVSIPビンズオン、ロンドゥック、タンロン電子機器、繊維、食品
インドネシアMM2100、KIIC、ジャバベカ自動車、化学、食品
インドマヒンドラ・ワールドシティ、スリシティ、タプカラ自動車、IT、医薬品

手順2 — Googleマップで工業団地名を検索する

Googleマップを開いて、工業団地名を入力します。たとえば「Amata Nakorn」と入力すると、タイのチョンブリ県にあるアマタナコン工業団地にズームされます。

手順3 — 業種名やキーワードで周辺を検索する

工業団地の位置を表示した状態で、検索窓に業種名を入力します。

すると、工業団地内とその周辺にある関連企業がピンで表示されます。

Googleマップでアマタナコン工業団地の周辺を検索した例
Googleマップでアマタナコン工業団地の周辺を検索した例

手順4 — 各企業の詳細を確認する

ピンをクリックすると、企業名・住所・電話番号・Webサイト(あれば)・写真・口コミが表示されます。この情報だけでリストの1行分になります。

企業リスティングの詳細情報の例
企業リスティングの詳細情報の例

現地語で検索すると結果が3〜5倍に増える

Googleマップでも、検索言語によって表示される企業数に大きな差が出ます。 英語で「food factory」と検索した場合と、タイ語で「โรงงานอาหาร」と検索した場合では、表示件数が3〜5倍違うことがあります。

これは、Googleマップのビジネスリスティングが現地語で登録されているためです。タイの中小工場の多くは、タイ語の企業名でしか登録されていません。英語で検索しても、英語名が登録されている企業しかヒットしません。

筆者の経験では、以下のような差があります。

検索エリア英語検索の結果現地語検索の結果倍率
チョンブリ県で「food factory」/「โรงงานอาหาร」約15件約60件約4倍
ドンナイ省で「plastic manufacturer」/「nhà máy nhựa」約10件約35件約3.5倍
プネー近郊で「auto parts factory」/「ऑटो पार्ट्स फैक्ट्री」約12件約40件約3倍

この「言語の壁」は、筆者が書いた別の記事「英語だけで海外企業を調べると何を見落とすか」でも詳しく共有しています。Googleマップでも同じ現象が起きます。

下の画像は、同じエリアでタイ語「โรงงานอาหาร」(食品工場)と検索した結果です。英語検索(前の画像)よりも多くの企業がヒットしています。

タイ語で「โรงงานอาหาร」と検索した結果。英語よりも多くの企業が表示される
タイ語で「โรงงานอาหาร」と検索した結果。英語よりも多くの企業が表示される

対象国の言語がわからなくても、Google翻訳で業種名を翻訳してからGoogleマップに貼り付ければ検索できます。完璧な翻訳である必要はありません。業種名が現地語であるだけで、検索結果が大幅に増えます

衛星写真で工場の存在と規模を確認できる

Googleマップの衛星写真を使えば、企業が実際に工場を持っているかどうかを目視で確認できます。 工場の敷地面積から、ざっくりとした事業規模を推定することも可能です。

企業リストを作っていると、「この会社は本当に工場を持っているのか」「ペーパーカンパニーではないか」という疑問が出てきます。Googleマップの衛星写真ビューに切り替えると、住所の場所に実際に工場建屋があるかどうかを確認できます。

衛星写真で確認できることを整理します。

確認項目わかること
工場建屋の有無登録住所に実際の建物があるか。空き地やマンションが映っていれば疑わしい
敷地面積大まかな事業規模。数千平米なら中小、数万平米なら中堅〜大手の目安
設備の外観煙突、タンク、大型機械が見えれば製造業だと判断できる
トラックの有無物流が活発かどうか。駐車場にトラックが並んでいれば操業中の可能性が高い
周辺環境工業団地内か、住宅地の中か。立地環境から事業の性質が推定できる

この「衛星写真で裏取り」は、Web検索やデータベース検索だけでは得られない情報です。住所だけのリストに、「実在性」と「規模感」を加えることができます。

ビジネスカテゴリは信用できない — Googleマップ最大の弱点

Googleマップのビジネスカテゴリは、企業がみずから登録した情報です。精度にばらつきがあります。 「製造業」と登録されていても実際は商社、というケースは珍しくありません。

これはGoogleマップを企業調査に使う上で最も注意すべき点です。具体的にどんな問題があるかを整理します。

問題具体例
カテゴリの自己申告実態は商社なのに「メーカー」と登録している
カテゴリ未設定大手工場でもカテゴリが「ビジネスセンター」になっている
カテゴリの粒度が粗い「食品加工」とだけ書いてあり、水産加工か乳製品かわからない
閉業情報の遅延すでに閉鎖された工場がまだ営業中として表示されている
位置情報のズレピンの位置が実際の工場から数百メートルずれている

Googleのコミュニティフォーラムでも、「明らかなカテゴリ間違いを指摘しても修正されない」という報告があります。カテゴリの正確性は、Googleマップの構造的な弱点です。

したがって、Googleマップはあくまで「候補を見つける」ツールです。見つけた企業が本当に対象業種かどうかは、別の情報源で確認する必要があります。

他の情報源と組み合わせると精度が上がる

Googleマップは単独で使うものではありません。「候補発見」はGoogleマップ、「確認・深掘り」は政府DBやWeb検索という役割分担が効率的です。

筆者が実務で使っている組み合わせ方を紹介します。

パターン1 — Googleマップで発見し、政府データベースで確認する

Googleマップで見つけた企業名を、その国の企業登記データベースで検索します。

1. Googleマップで工業団地周辺の企業を見つける
2. 企業名(現地語)をコピーする
3. タイならDBD DataWarehouse+、インドならMCA(企業省)ポータルで検索
4. 登記情報(資本金、設立年、事業内容)を確認する

これにより、Googleマップで見つけた「候補」に、登記情報という「裏付け」が加わります。

パターン2 — 政府データベースの住所をGoogleマップで実在確認する

逆のパターンもあります。政府データベースで見つけた企業の住所を、Googleマップの衛星写真で確認します。

1. 政府DBから業種コードで企業一覧を取得する
2. 各企業の住所をGoogleマップで検索
3. 衛星写真で工場の存在を確認
4. 空き地やマンションが映っていれば、ペーパーカンパニーの可能性を疑う

パターン3 — 競合企業の周辺を地図で探索する

すでにわかっている企業の工場を起点にして、周辺を探索する方法です。

1. 既知の競合企業の工場住所をGoogleマップで表示する
2. 周辺500m〜2kmの範囲で同業種を検索する
3. 工業団地内に集積している同業種の企業が見つかる

工場は「産業クラスター」を形成する傾向があります。自動車部品メーカーの工場の近くには、別の自動車部品メーカーの工場がある確率が高いのです。この地理的な近接性を利用できるのは、地図検索ならではの強みです。

数百社規模のリストにはAPIが必要

Googleマップを手動で検索してリストを作る場合、1日に調べられるのはせいぜい50〜100社程度です。 数百社規模のリストが必要な場合は、Google Places APIや専用ツールの活用が必要になります。

手動検索には限界があります。

方法1日の処理量の目安向いている場面
手動検索(ブラウザ操作)50〜100社特定エリアの予備調査、候補の目視確認
Google Places API数千社広範囲の網羅的リストアップ
専用スクレイピングツール数千〜数万社大規模なデータ収集

API利用には技術的な知識が必要ですし、APIの利用料金もかかります。しかし本格的な企業リストアップでは、手動操作だけでは時間が足りません

筆者はGoogle Maps APIと独自の自動化ツールを組み合わせて、広範囲の企業データを効率的に収集しています。ただし、APIで取得したデータも前述のカテゴリ精度の問題は残るため、結局は人間による確認と選別が必要になります。

Googleマップは「候補発見」のツールとして優秀

Googleマップを企業リストアップに使うポイントを整理します。

ポイント内容
Googleマップの強みWebサイトを持たない企業でも見つかる。衛星写真で実在確認ができる
最も効率的な使い方工業団地名で検索 → 周辺を業種名で探索
言語の影響現地語で検索すると結果が3〜5倍に増える
最大の弱点ビジネスカテゴリが不正確。製造業が商社と登録されているケースが多い
正しい使い方「候補発見」に使い、確認は政府DBやWeb検索で行う

Googleマップは万能ではありません。カテゴリの精度問題がある以上、これだけで完璧なリストは作れません。しかし「Web検索では見つからない企業を発見する」ための補助ツールとしては、非常に強力です。

Google検索、政府データベース、認証データベース、そしてGoogleマップ。複数の情報源を組み合わせることで、網羅性の高い企業リストが完成します。

調査者について

木下隆志 — 株式会社タイトンマイ代表

  • 大阪大学大学院修了
  • シャープ株式会社の調達部門に8年間勤務
  • うち2年間はタイ工場に駐在、調達課長として現地スタッフのマネジメントを担当
  • 日本人管理職は自分一人の環境で、英語・タイ語での調達実務を経験
  • 独立後、80カ国以上・10,000社以上の企業調査を実施

https://taitonmai.co.jp/knowledge/20260216_04.html

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