英語だけの企業調査では、対象国の企業の半分以下しかカバーできません。現地語のデータベースを使えば、英語では見えなかった企業が数倍の規模で出てきます。

「海外の取引先候補を調べてほしい」と頼まれて、英語でGoogle検索する。LinkedInで探す。ThomasNetやKompassで絞り込む。これは正しい手順です。ただし、これだけで終わると企業リストに大きな穴が空きます

とくにASEAN・中国を調べる場合、英語の情報だけでは現地企業の全体像が見えません。これらの国では企業情報の大部分が現地語でしか公開されていないからです。

この記事では、英語調査と現地語調査で企業リストにどれほどの差が出るのかを、タイと中国の実例で示します。各国で使える政府系データベースと民間データベースも一覧で整理しました。

(※ この記事には表が多数含まれています。表が見づらい場合は、当社WEBサイト版でも同じ内容をお読みいただけます)


英語だけの調査で企業リストの何割をカバーできるのか

タイや中国を対象にした場合、英語だけでリストアップできるのは全体の30〜50%程度です。

この差はどこから生まれるのか。理由は単純です。

タイや中国の企業は、英語のWebサイトを持っていない企業のほうが多いのです。英語サイトがあるのは、外国企業との取引がある一部の企業だけ。国内向けに事業をしている中堅〜中小企業は、自国語のサイトしか持っていません。

さらに、各国政府が運営する企業登記データベースも、現地語でしか検索できないものが多数あります。これらのデータベースには、その国で事業を行っているほぼすべての企業が登録されています。英語で検索しても何もヒットしません。

調査言語 カバーできる範囲 主な情報源
英語のみ 大手企業・輸出企業中心(30〜50%) Google英語検索、LinkedIn、ThomasNet、Kompass
英語+現地語 中小含む網羅的なリスト(80〜95%) 上記+政府DB、現地語企業検索サイト、業界団体

どの国にどんな企業データベースがあるのか — 政府系と民間系

現地語で企業を調べるためのデータベースは、「政府系」と「民間系」に大きく分かれます。

使い分けの基準は調査の目的です。政府系データベースは「その企業が本当に登記されているか」「登記上の事業範囲は何か」といった公式情報の確認に使います。

民間系データベースは、株主関係のネットワーク図、訴訟履歴、信用スコアなど、政府系では手に入らない加工済み情報を得るために使います。

多くのデータベースにはVPNが必要

各国の企業データベースの多くは、日本からアクセスできません。 地域制限(ジオブロック)がかかっているためです。

とくに中国のデータベースは、国外からのアクセスがほぼ完全にブロックされています。天眼查、企查查、国家企業信用情報公示システムのいずれも、日本のIPアドレスからは閲覧できません。中国拠点のVPN接続か、現地スタッフを通じたアクセスが必須です。

タイやベトナムのデータベースも、接続が不安定だったりCAPTCHA認証が出たりと、国外からのアクセスにハードルがある場合があります。


タイの企業データベース

タイは政府系データベースが充実しています。登記情報から工場情報、上場企業の財務データまで無料で入手可能です。

政府系データベース

データベース 運営 URL わかること 言語
DBD DataWarehouse+ 商務省事業開発局 datawarehouse.dbd.go.th 法人登記、株主構成、財務諸表。約205万社収録、うち約97万社が事業継続中(2025年12月末時点) タイ語・英語
DBD Open Data 商務省事業開発局 opendata.dbd.go.th 新規登記法人・外国人事業許可・清算法人の一覧。Excelダウンロード可 タイ語
DIW工場データベース 工業省工場局 diw.go.th 全国の登録工場を業種コードで検索。製造業の調査に必須 タイ語
SEC企業情報 証券取引委員会 market.sec.or.th 上場企業の開示情報、財務諸表、年次報告書 タイ語・英語
BOI投資奨励企業 投資委員会 boi.go.th BOI認可を受けた企業の一覧。Excelダウンロード可(最大200社) 英語

DBD DataWarehouse+は2025年にシステムが大幅リニューアルされ、英語インターフェースが改善されました。以前はタイ語のみでしたが、現在は英語でも基本的な検索が可能です。ただし、タイ語で検索したほうがヒット精度は高いのが実情です。

タイ商務省DBD DataWarehouse+ — タイ語で企業名や業種コードを入力して検索する。約205万社の法人登記データが収録されている

SEC(証券取引委員会)のサイトでは、タイの上場企業の一覧を閲覧できます。各企業の財務諸表や年次報告書も公開されています。

タイ証券取引委員会(SEC) — 上場企業の一覧と開示情報。企業ごとの財務諸表や年次報告書にアクセスできる

民間データベース

データベース URL 特徴
Creden Data data.creden.co タイ企業の信用情報・分析プラットフォーム。DBDデータを基に企業の財務分析や信用評価を提供
DataForThai dataforthai.com 新規登記企業を月別・県別・業種別で検索可能。タイ語のみ。最新データは会員登録が必要

中国の企業データベース

中国の企業データベースで最も重要なのは、「政府系」と「民間プラットフォーム」をはっきり区別することです。

中国の民間プラットフォーム(天眼查・企查查など)は非常に有名ですが、これらは政府機関ではありません。**国家企業信用情報公示システム(gsxt.gov.cn)**という政府のデータベースから工商登記データを取得し、裁判所の判決文書、特許データ、入札情報などを統合して付加価値を付けた商業サービスです。

政府系データベース

データベース 運営 URL わかること
国家企業信用情報公示システム 国家市場監督管理総局 gsxt.gov.cn 全登記企業の工商登記情報、年報、行政処罰、経営異常リスト。すべての企業情報の原本がここにある
信用中国 国家発展改革委員会 creditchina.gov.cn 企業・個人の信用情報、ブラックリスト(失信被執行人)、行政許可、行政処罰

国家企業信用情報公示システムは、中国で登記されたすべての企業の情報が登録されている唯一の公式データベースです。天眼查や企查查のデータも、元をたどればここから来ています。中国語のみ対応で、日本からは直接アクセスできません。

民間データベース

データベース URL 収録規模 特徴
企查查(QCC) qcc.com 国内約3.3億社、グローバル約5.8億件 登記情報、リスク情報、関連会社ネットワーク。登録ユーザー1.5億人超(2025年6月時点、上場申請書類より)。データ源が最も多い
天眼查 tianyancha.com 国内約3.4億件、グローバル約6.4億件 登記情報、株主構成、経営幹部、知的財産、訴訟履歴。知名度が最も高い
爱企查 aiqicha.baidu.com 同規模 百度(Baidu)が運営。百度検索との連携が強み。基本機能は無料

天眼查と企查查はどちらもIPO申請を行うほどの大規模プラットフォームです。両社のデータは基本的に同じ政府データベースから取得していますが、加工方法や付加情報に違いがあります。企查查は2025年10月に上海証券取引所への上場申請が受理されました。

中国のデータベースはすべて中国語です。日本からのアクセスには中国拠点のVPNが必須です。


アジア主要国の企業データベース

データベース 種別 URL 英語対応 備考
韓国 DART 政府系 dart.fss.or.kr あり(englishdart.fss.or.kr 金融監督院が運営。上場企業の開示情報・財務データ
ベトナム 国家企業登録ポータル(NBRP) 政府系 dangkykinhdoanh.gov.vn 一部あり 計画投資省が運営。英語版は情報が限定的。ベトナム語版の利用を推奨
ベトナム Masothue 民間 masothue.com なし 税番号から企業情報を検索。広く使われている
インド MCA 政府系 mca.gov.in あり 企業省が運営。CIN(企業識別番号)で検索。CAPTCHA認証あり
インドネシア AHU Online 政府系 ahu.go.id なし 法務人権省が運営。法人の登記情報

韓国のDARTは、アジアの企業データベースの中では例外的に英語対応が充実しています。英語版サイト(englishdart.fss.or.kr)で上場企業の開示情報を検索できます。

韓国金融監督院DART — 英語版インターフェースで企業開示情報を検索できる。アジアでは珍しく英語対応が充実している


タイ語で調べると「見えない企業」が大量に出てくる

英語のGoogle検索で見つかるのは大手と輸出企業の20〜30社程度。タイ商務省のDBD DataWarehouse+には約205万社の法人登記データが収録されています。

英語で「Thailand plastic manufacturer」とGoogle検索すると、英語サイトを持つ大手企業が20〜30社ほど出てきます。BOI(タイ投資委員会)の英語サイトでも投資認可企業を検索できますが、ここに載るのは投資奨励を受けた企業だけです。

ところが、タイ語で「ผู้ผลิตพลาสติก」(プラスチック製造業者)と検索すると、英語では出てこなかった企業が次々に見つかります

DBD DataWarehouse+の威力

タイ商務省事業開発局(กรมพัฒนาธุรกิจการค้า)が運営するDBD DataWarehouse+は、タイ国内で登記された法人の登記情報、株主構成、財務諸表を無料で閲覧できるサービスです。

ここで重要なのは、タイの企業登記名は「บริษัท ○○ จำกัด」(○○有限会社)というタイ語の正式名称で登録されている点です。英語のトレード名とは表記が異なるため、英語では検索にかからないケースが頻繁に起きます

DIW工場データベース

もうひとつ、タイの工業省工場局(กรมโรงงานอุตสาหกรรม、diw.go.th)が公開している工場データベースも強力です。タイ全国の登録工場が業種コード付きで検索できます。

たとえば「食品加工」の業種コードで検索すると、タイ全国の食品加工工場が一覧で出てきます。英語のGoogle検索では20社しか見つからなかった食品メーカーが、このデータベースでは数百社出てくることもあります。

ただし、このデータベースもタイ語です。英語での検索には対応していません。


中国では政府データベースに全登記企業がある

国家企業信用情報公示システム(gsxt.gov.cn)には、中国で登記されたすべての企業の情報が登録されています。 天眼查や企查查といった民間プラットフォームは、このデータを基盤にしています。

中国企業を英語だけで調べた場合、見つかるのはアリババ国際版(alibaba.com)やGlobal Sourcesに出品している輸出向け企業が中心です。これらのプラットフォームに掲載されているのは、海外との取引を前提にした企業だけです。

中国語で調べると、使える情報源の数と質がまったく変わります。

英語のアリババと中国語データベースではどれだけ差があるか

たとえば「化学品 製造」で企業を探す場合を比べてみます。

英語でアリババ国際版を検索すると、化学品メーカーとして登録されている企業は数千社です。しかし企查查で「化工」(化学工業)を検索すると、関連企業は数十万社の単位で出てきます。

この差の本質は「誰が見るためのデータか」にあります。アリババ国際版は海外バイヤー向けのプラットフォームです。輸出に関心がない中国国内向け企業は掲載されていません。一方、民間データベースは中国の工商登記データを基にしているため、国内専業の企業もすべて含まれます。


英語サイトの「manufacturer」は本当にメーカーか

英語のプラットフォームで「manufacturer」と名乗っている企業が、実際にはtrading company(商社)だったケースは珍しくありません。 現地語の登記データベースで確認すれば、この見極めができます。

これは実務でよく遭遇する問題です。

アリババやGlobal Sourcesで「manufacturer」と表記している企業のWebサイトを見ると、工場の写真が載っていて、自社生産しているように見えます。しかし現地語で工商登記情報を確認すると、登記上の事業範囲に「製造」が含まれておらず、「貿易」「批発(卸売)」しか記載されていないケースがあります。

つまり、他社が製造した製品を仕入れて輸出しているだけの商社です。

メーカーを探している依頼者にこうした企業を納品してしまうと、リストの信頼性に関わります。現地語で登記データベースを直接確認すれば、こうした誤認を防げます。

中国であれば国家企業信用情報公示システムや企查查で「经营范围」(事業範囲)を確認します。タイであればDBD DataWarehouse+で登記上の事業目的を確認します。いずれもその企業が実際に何をしている会社なのか、登記ベースで判断できます。


英語だけでは足りない構造的な3つの理由

英語での企業情報が限定的な理由は、言語の壁だけではありません。法制度、データベースの設計思想、企業のWeb運営方針という3つの構造的要因が絡んでいます。

1. 政府の企業データベースは自国語で設計されている

各国の企業登記データベースは、自国の行政手続きのために作られたものです。外国人が使うことは想定されていません。タイのDBD DataWarehouse+も、中国の国家企業信用情報公示システムも、韓国のDARTも、基本的には自国語で検索する前提で設計されています。

2. 中小企業は英語サイトを作る動機がない

国内市場だけで事業が成り立っている企業は、英語のWebサイトを作るコストをかけません。タイの中堅食品メーカー、中国の地方都市の部品メーカー — こうした企業は自国語のサイトしか持っていません。英語で検索しても存在を知ることができない企業群です。

3. 英語の情報は「見せたい企業」に偏る

英語圏のビジネスプラットフォームに掲載されているのは、海外との取引を積極的に求めている企業です。自社を外国に売り込みたい企業が自ら情報を掲載しています。この構造では、すでに国内取引で十分な売上がある実力企業は英語の情報として表に出てきません


英語は「入口」、現地語で「全体像」が見える

英語での調査は、海外企業リストアップの出発点として正しい選択です。大手企業や輸出企業は英語で見つかります。

しかし英語だけで完結させると、現地の中堅・中小企業が大量に抜け落ちます。タイならDBD DataWarehouse+の約205万社、中国なら国家企業信用情報公示システムの全登記企業データに英語ではアクセスできません。

とくに、各国のデータベースには**地域制限(ジオブロック)**がかかっているものが多く、VPNなしでは日本からアクセスすらできないケースがほとんどです。言語の壁に加えて、アクセスの壁もあります。

取引先候補を「網羅的に」知りたい場合、現地語調査は必須です。

調査の目的 英語だけで十分か
上位10〜20社の主要プレーヤーを知りたい 十分なケースが多い
50社以上の候補を網羅的にリストアップしたい 現地語調査が必要
企業の登記情報・財務データまで確認したい 現地語データベースが必須
メーカーか商社かを正確に見極めたい 現地語の登記情報で確認

【出典】


調査者について

木下隆志 — 株式会社タイトンマイ代表

  • 大阪大学大学院 経済学研究科 修士課程修了

  • シャープ株式会社の調達部門に8年間勤務

  • うち2年間はタイ工場に駐在、調達課長として現地スタッフのマネジメントを担当

  • 日本人管理職は自分一人の環境で、英語・タイ語での調達実務を経験

  • 独立後、80カ国以上・10,000社以上の企業調査を実施


https://taitonmai.co.jp/column/20260216_03/