海外企業のリストアップは、情報源の選定と検索手順の設計で成果の9割が決まります。この記事では、80カ国以上・10,000社超の企業調査を手がけてきた筆者が、実務で使っている全手順を公開します。

「海外の○○メーカーをリストアップしてほしいと言われたが、どこから手をつけていいかわからない」 「Googleで検索しても上位20社くらいで手詰まりになる」 「業界団体や展示会のリストも見たが、まだ足りない気がする」

企業リストアップの仕事では、こうした壁にぶつかる方が少なくありません。

じつは**「何を調べるか」より「どこで調べるか」で差がつきます**。情報源を知っていれば100社は難しくありません。知らなければ20社で止まります。

この記事では、BtoB製造業を中心に、企業リストアップの全手順と12の情報源の使い分けをまとめてみました。


リストアップの成否は「対象企業の定義」で決まる

検索を始める前に「何をリストアップするのか」を言語化するのが最優先です。

企業リストアップで最初にやるべきことは、検索でもデータベースの操作でもありません。対象企業の定義です。この定義が曖昧なまま作業に入ると、100社集めても半分が対象外になります。

定義すべき項目

項目 具体例
対象製品 バッテリーチャージャー、ガスセンサー、液体食品用紙容器
対象外製品 完成品ではなく部品のみの企業、販売代理店
対象国・地域 ASEAN6カ国、欧州、北米
企業規模 売上高10億円以上、従業員100名以上
バリューチェーン上の位置 メーカー(製造)、ディストリビューター(流通)、どちらも含むか

よくある失敗

依頼者が「漏れのないリストがほしい」と言っているのか、「主要プレーヤー30社でいい」と言っているのかで、調査のアプローチはまったく違います。

前者なら認証データベースや貿易データまで使って網羅的に調べる必要があります。後者なら有料レポートと業界団体で十分です。依頼者が求めるリストの性質を最初に確認するのが鉄則です。

「言い換え」で正しい用語を見つける

対象製品の名称は、業界で使われている正式名称と、依頼者が使う呼び名が異なることがよくあります。

  • 牛乳パック → ミルクカートン → 液体食品用紙容器

  • 非常灯 → Emergency Lighting → Emergency Luminaire

正しい用語にたどり着くには、以下の方法が有効です。

方法 内容
リサーチナビ(国立国会図書館) 用語をそのまま検索すると、関連する上位概念・下位概念が見つかる
GII(グローバルインフォメーション) 市場レポートのタイトルから英語の正式名称を特定できる。中国語訳も確認可能
Wikipedia(英語版) 技術用語の英語名、関連規格、産業分類が整理されている
産業コード(ISIC、NAICS、HSコード) データベース検索で使う分類コード。用語のブレを防げる

産業コードは後工程のデータベース検索で必ず必要になるため、この段階で確認しておきます。

GIIで「battery charger」と検索した例です。1,049件のレポートがヒットし、レポートタイトルから正式な英語名称や関連する用語がわかります。

GIIで「battery charger」を検索した結果。1,049件の市場レポートがヒットしている


いきなり企業名を探してはいけない — まず市場構造を把握する

対象業界の「誰が何を作っているか」の地図を先に描くと、検索効率が一気に上がります。

企業リストアップで2番目にやるべきことは、対象業界の市場構造の把握です。いきなり企業名を探し始めると、重要な企業を見落とします。

例えばガスセンサー業界を調べる場合、製品は大きく3層に分かれます。

ガスセンサー(部品) → ガス検知器(機器) → ガス分析システム(システム)

依頼が「ガスセンサーメーカーのリストアップ」であれば、ガス検知器メーカーは対象外です。しかしガス検知器メーカーの中にはセンサーを内製している企業もあるため、川下の情報も把握しておく必要があります

市場構造を把握する方法

順番 方法 所要時間
1 有料レポートのサンプル(目次・主要プレーヤー欄)を確認 30分
2 産業コードに紐づくレポート(Gale Business Insights: GlobalでMarketLite、GlobalDataなど)を閲覧 1時間
3 日本語のニュース検索(日経新聞、Factiva内の新聞記事)で業界概要を把握 30分

情報がまとまっているところから確認するのが鉄則です。 個別のGoogle検索で断片的に情報を集めるのは非効率になります。レポートを1本読めば、市場規模・用途区分・主要プレーヤー・地域別シェアが一度にわかります。

有料レポートが手配できる場合は、最初の1本を熟読してみてください。シェアデータがあれば上位企業から優先的に調べられます。シェアがなくても、レポートに名前が出る企業は主要プレーヤーです。

注意点として、企業リストアップが目的の場合は、政策動向や規制の確認に時間をかけすぎないこと。調査の主目的を見失わないようにしましょう。


12の情報源と使い分け — 検索の順番が効率を決める

企業リストアップに使える無料の情報源は12種類あります。すべてを使う必要はありませんが、存在を知っているだけで調査の幅が広がります。

以下に、情報源ごとの特徴と調査での使いどころを整理します。

# 情報源 費用 何がわかるか 使いどころ
1 有料レポートのサンプル 無料※ 主要プレーヤー、市場シェア、市場区分 最初に確認。上位企業の特定
2 業界団体の会員リスト 無料 業界の主要企業一覧(理事=有力企業) 主要企業の網羅。理事リストは特に重要
3 企業ディレクトリ 無料 業種別の企業一覧(ThomasNet、LinkedInなど) 特定の業種・地域の企業発見
4 展示会の出展者リスト 無料 その業界に製品を出している企業 中堅・新興企業の発見
5 認証データベース 無料 製品安全認証の取得企業(UL、IECEE、EESSなど) 実際に製品を製造している企業の特定
6 政府・規制当局のDB 無料 許認可企業、登録工場、輸入者リストなど 規制業種での企業特定。意外に情報が豊富
7 ImportYeti(貿易データ) 無料 米国への輸入実績がある企業名・出荷頻度 実際に輸出している企業の特定
8 特許データベース 無料 関連技術の出願企業 技術難度が高い部品の製造企業特定
9 Google検索 無料 幅広い企業情報 他の情報源で見つからない企業の補完
10 Google Maps 無料 工場・事業所の所在地 現地の中小メーカー発見(特にアジア)
11 学術論文 無料 研究機関・企業の技術開発動向 先端技術分野の企業発見
12 求人サイト 無料 採用中の企業(事業拡大中の可能性) 新興企業・参入企業の発見

※ 有料レポート本体は高額ですが、GIIなどのサイトで目次・主要プレーヤー欄は無料で閲覧できます

情報源の優先順位

すべてを調べる時間はありません。以下の順番で進めると効率的です。

第1グループ(必須) — 有料レポートのサンプル → 業界団体 → 企業ディレクトリ → Google検索 第2グループ(推奨) — 展示会 → 認証データベース → 政府・規制当局のDB → ImportYeti → 特許 第3グループ(補完) — 学術論文 → Google Maps → 求人サイト

第1グループだけで主要企業の60〜70%はカバーできます。第2グループまでやれば80〜90%に到達します。第3グループは「漏れのないリスト」を求められた場合の補完手段です。

なお、調査会社やコンサルティングファームは、これらに加えてFactivaやD&B Hooversなどの有料データベースを使います。有料データベースについては記事後半の「プロが使う有料データベース」で紹介します。


各情報源の具体的な使い方

ImportYeti、認証データベース、企業ディレクトリ、政府・規制当局のデータベースなど、主要な情報源の具体的な使い方を紹介します。

ImportYetiで米国向け輸出企業を無料で調べる

ImportYeti(https://www.importyeti.com/)は、米国の輸入通関データを無料で検索できるサービスです。

ImportYetiのトップページ。7,000万件の米国通関データを無料で検索できる

使い方は単純です。検索窓に企業名(英語)を入力するだけ。企業名で検索すると、その企業のサプライヤーや出荷頻度がわかります。

例えば「battery charger」で検索すると、名前に「battery charger」を含む企業や関連するサプライヤーの一覧が表示されます。各企業について、出荷回数や取引先(米国側の輸入者)も確認できます。

ImportYetiで「battery charger」を検索した結果。関連企業が出荷回数・取引先とともに表示される

ImportYetiの強みは、実際に製品を出荷している企業がわかる点です。Webサイトだけでは実態が見えない企業でも、貿易データに名前があれば実際に事業を行っている証拠になります。

注意点として、データは米国向けの輸入に限定されます。米国と取引のない企業は出てきません。無料版では表示件数にも制限があります。

認証データベースで実際の製造企業を特定する

認証データベースは、実際に製品を製造している企業を特定できる数少ない情報源です。 UL Product iQ、IECEE CB Scheme、各国の認証DBを製品カテゴリの規格番号で検索します。

詳しい使い方は別記事「マキタの充電器の製造元は?認証データベースでわかるOEM関係の調べ方」にまとめています。

ポイントだけ紹介します。

データベース 検索方法 特徴
UL Product iQ キーワード or CCNコード 米国認証。カテゴリ検索が強力
IECEE CB Scheme IEC規格番号 国際横断検索。50カ国以上をカバー
EESS(豪州) Trade Name + Model OEM元の社名・住所まで判明

企業ディレクトリの使い方

ディレクトリ 地域 特徴
ThomasNet 北米 北米の製造業に特化
LinkedIn グローバル 企業プロフィールと従業員情報

政府・規制当局のデータベースは無料の宝庫

企業リストアップで見落とされがちなのが、各国政府や規制当局が公開しているデータベースです。

業界ごとに許認可や登録が必要な製品では、政府が企業リストを無料で公開しているケースが多くあります。

考え方はシンプルです。「この製品を作る(売る)には、どこかに届出や登録が必要か?」と考えてみてください。必要なら、その届出先のデータベースに企業リストが載っています。

分野 情報源の例 内容
医薬品 各国の医薬品規制当局(FDA、EMAなど) 医薬品の製造許可を持つ企業リスト
食品 各国の食品安全当局 食品の製造・輸入許可企業リスト(フィリピンでは食品輸入者が全件公開されている)
工場 各国の産業省・工業局 登録工場のリスト(タイでは工場局が全国の工場リストを公開。業種別に検索可能)
電気製品 認証機関(UL、IECEEなど) 製品安全認証の取得企業(前述の認証データベース)
環境・CO2 各国の環境規制当局、排出量報告制度 CO2排出量の報告義務がある企業リスト。石油化学・重工業など排出量が多い業界では、排出企業が公開データベースに載っているため企業リストアップに活用できる

特にタイの工場局(DIW)のデータベースは、タイ国内のほぼすべての工場が業種コード付きで登録されています。企業データベースとして非常に強力です。

対象業界の規制構造を理解すれば、思いのほか多くの情報が政府のWebサイトから無料で手に入ります。

特定国向けの情報源

情報源 対象国 内容
BOI(投資委員会) タイ タイへの投資認可企業リスト
DIW(工場局) タイ タイ全国の工場リスト(業種コード検索可能)
Data Warehouse タイ タイの企業データベース
FDA Philippines フィリピン 食品・医薬品の輸入者・製造者リスト

国ごとに独自の企業データベースや投資認可リスト、工場登録制度が存在します。対象国が決まったら、その国固有の情報源がないか確認してみてください。「○○国 ○○ manufacturer list」「○○国 factory registration database」などで検索すると見つかることがあります。


実務の7ステップ — 受領から納品まで

企業リストアップの全工程を7つのステップに分解します。最初の3ステップを丁寧にやれば、後半の作業効率が劇的に上がります。

Step 1 — 受領資料を徹底的に読み込む

依頼者から受け取った資料をすべて読み込みます。わからない用語がゼロになるまで調べるのがポイントです。

調べる場所の優先順位は以下のとおりです。

  1. 辞書(手持ち、コトバンク)

  2. Wikipedia(日本語→英語)

  3. 専門辞書

  4. Web検索

  5. 書籍

わからない箇所は早めに依頼者に確認しましょう。後になるほど確認しづらくなります。

Step 2 — 対象企業を定義する

前述の「対象企業の定義」を行います。対象と対象外の範囲を明確にしてください。

企業抽出条件の可変点は、調査項目としてExcelリストに記入しておきます。 例えば医薬品なら「形状(液体、粉末、固体)」のように、企業を振り分ける選別条件(スクリーニング)をあらかじめ設計しておくと、後工程が楽になります。

Step 3 — 市場構造を把握する

有料レポートとニュース検索で業界の全体像をつかみます。川上・川下の関係を整理してください。

Step 4 — 情報源から企業をリストアップする

前述の12の情報源を、優先順位に沿って調査します。各情報源から企業名とURLを抜き出していきます。

Step 5 — 企業リストを統合する

各情報源から集めた企業を1つのExcelリストに統合します。

統合時のルールは以下のとおりです。

  • 業界団体の会員か、有料レポートに掲載されているかを列に記録しておく

  • 関連性が低い企業は削除せず「対象外」と記載する(削除すると再調査の手間が発生する)

  • 事業内容は機械翻訳で日本語に変換しておく

Step 6 — 上位企業のWebサイトをチェックする

統合リストの上位10〜20社について、Webサイトを確認します。

  • 対象製品を実際に製造・販売しているか

  • 該当度(High / Medium / Low など)を設定する

  • 一言でもいいので企業を説明する文を入れる

Step 7 — 最終リストを整理して納品する

スクリーニング条件に基づいて分類し、依頼者が求める形式で納品します。


プロが使う有料データベース

無料の情報源だけでは限界がある場合、調査会社やコンサルティングファームが使う有料データベースが選択肢になります。

以下のデータベースは年間契約が必要で、費用も数十万〜数百万円かかります。しかし調査の精度と効率は大きく向上します。

データベース 特徴 主な用途
Factiva(Dow Jones) ニュース検索+企業検索。業種コード・売上高で企業を絞り込める 業界ニュースからの企業発見。企業リストの一括抽出
D&B Hoovers(Dun & Bradstreet) 世界最大級の企業データベース。産業コード・売上高・従業員数で検索 条件指定による企業リスト作成。「小さな集合を作って結合」が鉄則
Panjiva(S&P Global) 複数国の輸出入通関データ。HSコードで検索 実際に貿易を行っている企業の特定
Euromonitor(Passport) BtoC消費財の市場データ。ブランドシェア・小売チャネル別データ 消費財メーカーのリストアップ。BtoC調査では必須級

Factivaは大手企業や大学が契約していることが多く、所属組織で利用できる場合もあります。自社での契約が難しい場合は、これらのデータベースを保有する調査会社に依頼するのも選択肢です。


よくある落とし穴と対策

検索ツールを使いこなしていても、以下のミスで調査の質が下がることがあります。

1. 用語のブレで企業を取りこぼす

同じ製品でも呼び名が複数あります。「battery charger」で検索して満足すると、「charging station」「power supply」で登録されている企業を見逃します。

対策 — GIIのレポートタイトル検索で類義語を洗い出す。英語だけでなく中国語の用語もGIIで確認できます。

2. 産業コードのズレ

企業データベースや市場レポートの産業コードは、自社が想定する業種分類と一致しないことがあります。

対策 — 産業コードを鵜呑みにせず、複数の関連コードで検索する。

3. 検索結果の地域バイアス

Google検索は、ブラウザの言語設定と地域設定に結果が左右されます。日本語環境で検索すると、日本と英語圏の企業しか出てこないことがあります。

対策 — ブラウザの言語と地域を対象国に変更して検索する。VPNの利用も有効です。

4. 対象外企業を削除してしまう

調査中に「これは対象外だろうか」と判断して削除すると、後から「やっぱり含めてほしい」と言われたときに再調査が必要になります。

対策 — 対象外と思う企業も削除せず「対象外(理由 ○○)」と記載して残す。


企業リストアップは「情報源の選択」と「対象定義」が9割

企業リストアップで最も差がつくのは、対象企業の定義と情報源の選択です。 この記事で紹介した内容を整理します。

  • 対象企業の定義を最初に固める。 依頼者が求めるリストの性質(網羅性?主要企業?調査項目の深さ?)で調査アプローチが変わる

  • 市場構造を先に把握する。 レポートとニュースから業界の地図を描いてから検索に入る

  • 12の無料情報源を優先順位をつけて使う。 レポートのサンプル→業界団体→企業ディレクトリ→Google検索の順で、主要企業の60〜70%はカバーできる

  • さらに精度を上げるなら有料DB。 Factiva、D&B Hoovers、Panjivaなどは調査会社が使うプロの道具。自社で契約するか、調査会社に依頼するかの判断になる

  • リスト統合時に情報を捨てない。 対象外企業も理由を付けて残す。出典(業界団体、レポートなど)も記録する

企業リストアップは「誰でもできる単純作業」に見えて、実は情報源の知識と検索設計で大きく差がつく仕事です。この記事が、調査の効率化のお役に立てば幸いです。


調査者について

木下隆志 — 株式会社タイトンマイ代表

  • 大阪大学大学院 経済学研究科 修士課程修了

  • シャープ株式会社の調達部門に8年間勤務

  • うち2年間はタイ工場に駐在、調達課長として現地スタッフのマネジメントを担当

  • 日本人管理職は自分一人の環境で、英語・タイ語での調達実務を経験

  • 独立後、80カ国以上・10,000社以上の企業調査を実施


https://taitonmai.co.jp/column/20260215_04/