海外市場の規模を調べるなら、無料の国際統計データベースを使うのが最も効率的です。UNIDO、World Bank、UN Comtradeなど7つのデータベースを用途別に使い分ければ、有料レポートを買う前に市場の全体像をつかめます。

「海外進出を検討しているが、まず市場規模の全体感を数字でつかみたい」 「有料の市場調査レポートを買うべきか判断する材料がほしい」

こうした場面で使えるのが、国連やWorld Bankが公開している無料の統計データベースです。この記事では、海外市場調査で活用できる7つのデータベースの使い分け方を書いてみます。


7つのデータベースは用途で使い分ける

製造業の産業規模ならUNIDO、マクロ経済ならWorld Bank、貿易ならUN Comtrade。調べたい内容によって最適なデータベースが異なります。

まず全体像を見てみましょう。以下の表が使い分けの基本です。

やりたいこと 使うDB 何がわかるか
特定業種の産業規模を国別比較 UNIDO INDSTAT 付加価値額・生産額・雇用者数(ISIC分類で24業種に分解可能)
製造業全体のマクロ比較 World Bank GDP・製造業付加価値額(APIで複数国を一括取得可能)
輸出入の品目別金額 UN Comtrade HSコード・SITCコードで品目指定した貿易額
農業生産・食料貿易 FAOSTAT 農業生産額・食料供給量・農産物貿易額(245カ国、1961年〜)
ASEAN域内の経済指標 ASEAN Stats 加盟10カ国の貿易・投資・経済指標(ASEAN事務局公式)
アジア太平洋の経済指標 ADB Key Indicators アジア49カ国・地域のGDP・産業構成・投資
どのDBを使うか迷ったとき UNdata 上記DBを横断検索できるポータルサイト

UNIDO INDSTATは産業規模の比較で最も正確なデータベース

国連工業開発機関(UNIDO)のINDSTATは、ISIC(国際標準産業分類)ベースで153カ国の製造業データを24業種に分解して比較できます。産業調査の最重要データベースです。

取得できるデータ

指標 内容
Output(生産額) 製品出荷額
Value added(付加価値額) 生産額から中間投入を引いた値。産業の「実力」を示す
Establishments(事業所数) その国にその業種の工場がいくつあるか
Employees(雇用者数) 従業員数
Wages and salaries(賃金) 人件費総額
Gross fixed capital formation 工場・設備への投資額

データ範囲は153カ国、1981年から2023年まで。無料で登録不要です。

ISIC分類の具体例(食品関連)

ISIC 2桁コードで業種を指定します。さらに4桁レベルで細分化も可能です。

ISICコード 内容
10 食料品製造業(Food products)
11 飲料製造業(Beverages)
20 化学製品(Chemicals)
22 ゴム・プラスチック
27 電気機器
28 汎用機械

ISIC 10(食品)は4桁レベルでさらに分かれます。1010が食肉加工、1020が水産加工、1040が植物油脂、1050が乳製品、1061が穀物加工です。

アクセス方法

Webで見る場合は https://stat.unido.org/data/table にアクセスし、国・ISIC・指標を選択します。CSVダウンロードにも対応しています。

APIも用意されています。ただし1国ずつ取得する仕様のため、複数国を比較するならWeb画面か一括ダウンロード( https://stat.unido.org/data/download )が効率的です。


World Bank APIなら「5分でマクロ比較」ができる

World Bank Open DataはAPIの使い勝手がよく、複数国の製造業付加価値額やGDPを1リクエストで取得できます。「まずざっくり全体感をつかむ」ときに最適です。

World Bank Open Data トップページ

よく使う指標コード

指標コード 内容
NV.IND.MANF.CD 製造業付加価値額(USD)
NV.MNF.FBTO.ZS.UN 食品・飲料・たばこが製造業VAに占める比率(%)
NY.GDP.MKTP.CD GDP(USD)
SP.POP.TOTL 人口

API呼び出しの具体例

ASEAN5カ国の製造業付加価値額を取得する場合、以下のURLをブラウザに貼るだけで結果が返ります。

https://api.worldbank.org/v2/country/THA;VNM;IDN;PHL;MYS/indicator/NV.IND.MANF.CD?format=json&date=2020:2024

国コードをセミコロンで区切れば、複数国のデータを1回で取得できます。format=jsonでJSON形式、date=2020:2024で年範囲を指定します。

APIドキュメントは https://datahelpdesk.worldbank.org/knowledgebase/articles/889392 にあります。

World BankとUNIDOの使い分け

比較項目 UNIDO INDSTAT World Bank
業種の粒度 ISIC 2桁〜4桁(24業種以上) 「食品・飲料・たばこ」で1括り
取得できる指標 生産額、付加価値、雇用、事業所数、設備投資、賃金 付加価値の製造業中の比率(%)のみ
API あるが1国ずつ 複数国を1リクエストで取得可能
使いやすさ やや複雑 シンプル

業種別に詳しく調べたいならUNIDO、ざっくり国別のマクロ比較をしたいならWorld Bankです。


UN Comtradeは「この国は何を輸出しているか」がわかる

国連の国際貿易統計データベースUN Comtradeは、HSコード(税関分類)で品目を指定して輸出入金額を取得できます。国内の産業規模ではなく「貿易構造」を調べるデータベースです。

UN Comtrade トップページ

UNIDOが「国内の製造業の規模」を示すのに対し、UN Comtradeは「その国が何をどれだけ輸出入しているか」を示します。用途が別物なので注意が必要です。

品目分類

  • HSコード(6桁) で品目を細かく指定できます。例えばHS 1902が「パスタ・麺類」

  • SITCコード は大分類での比較に向いています

食品関連のHSコード例

HSコード 内容
02
03 魚介類
04 乳製品・卵
16 肉・魚の調製品
19 穀物調製品・パン・菓子
20 野菜・果物の調製品
21 各種調製食料品

Web画面は https://comtradeplus.un.org/ です。APIもあります(無料版は時間あたりリクエスト制限あり)。Pythonならpip install comtradeapicallで公式ライブラリを利用できます。


FAOSTATは農業側のデータ、UNIDOは製造業側のデータ

FAO(国連食糧農業機関)のFAOSTATは、農業生産額・食料供給量・農産物貿易額を245カ国分収録しています。農業・原料側のデータが必要なときに使います。

FAOSTAT トップページ

UNIDOとの違いを一言で言えば、コメの生産量を調べるならFAOSTAT、即席麺の製造額を調べるならUNIDOです。

比較項目 FAOSTAT UNIDO INDSTAT
対象範囲 農業(原料、一次産品の生産) 製造業(加工食品の製造)
データ例 コメの生産量、牛肉の輸出量 食品加工業の付加価値額、雇用者数
国数 245カ国 153カ国
開始年 1961年 1981年

Web画面は https://www.fao.org/faostat/ です。CSVダウンロードに対応しています。

自分の調査では、ASEAN各国の食品メーカーを調べる際にFAOSTATとUNIDOを組み合わせて使っています。原料側の供給量と製造業側の加工規模を両面から見ることで、その国の食品産業の構造が見えてきます。


ASEAN StatsとADB Key Indicatorsはアジア特化の統計ポータル

ASEAN事務局が運営するASEAN Statsは加盟10カ国のデータを横並びで比較できます。アジア開発銀行(ADB)のKey Indicatorsはアジア太平洋49カ国・地域を網羅しています。

ASEAN Stats

ASEAN Stats トップページ

ASEAN域内の比較に特化しているため、World Bankより細かいASEAN固有の指標(域内貿易比率、FDI流入額など)を取得できます。

ADB Key Indicators

ADB Key Indicators トップページ

  • URL: https://kidb.adb.org/

  • 内容 — GDP、産業構成、貿易、投資、人口、教育

  • 対象 — アジア太平洋49カ国・地域

アジアに特化しているため、インド、バングラデシュ、パキスタンなど南アジアのデータも充実しています。


UNdataは「どのDBを使えばいいかわからない」ときの出発点

UNdata( https://data.un.org/ )は、UNIDO・Comtrade・SNA(国民経済計算)など複数の国連データベースを横断検索できるポータルサイトです。

UNdata トップページ

特定のデータベースに詳しくない段階では、まずUNdataで検索してみるのがおすすめです。どのデータベースに目的のデータがあるかがわかります。慣れてきたら各データベースに直接アクセスする方が効率的です。


ASEAN食品製造業の市場規模を30分で把握する実践フロー

以下の4ステップで、ASEAN各国の食品製造業の規模感を無料データだけで把握できます。World Bank APIとUNIDO INDSTATから実際に取得したデータを示します。

ステップ1 — World Bank APIでマクロ比較(5分)

製造業付加価値額と食品比率を取得します。

製造業VA(2024年) 食品比率 食品製造業VA(概算)
インドネシア $2,651億 28.1%(2022年) 約11.2兆円
フィリピン $724億 33.7%(2022年) 約3.7兆円
タイ $1,281億 17.5%(2021年) 約3.4兆円
ベトナム $1,164億 11.5%(2022年) 約2.0兆円
マレーシア $950億 10.9%(2022年) 約1.6兆円

この表は、World Bank APIの指標コードNV.IND.MANF.CDNV.MNF.FBTO.ZS.UNから算出しています。

ステップ2 — UNIDO INDSTATで業種別の詳細を確認(10分)

ISIC 10(食品製造業)を指定して、付加価値額・事業所数・雇用者数を取得します。World Bankでは1括りだった「食品」を、さらに4桁レベルで細分化できます。

ステップ3 — UN Comtradeで貿易構造を把握(15分)

食品関連のHSコード(02〜21)で輸出入金額を調べます。**「この国は食品を輸出する側か、輸入する側か」**がわかります。進出戦略の方向性(輸出拠点か現地消費向けか)を判断する材料になります。

ステップ4 — 個別企業の調査へ(別途)

マクロデータで市場の全体像をつかんだ後、個別企業の調査に進みます。各国の証券取引所データ、企業IR情報、政府の企業登記データベースなどを使います。


目的に応じたデータベース選択が調査効率を決める

海外市場の規模を調べるとき、最初にすべきことは「何を知りたいか」を明確にし、それに合ったデータベースを選ぶことです。

調べたいこと 最適なDB 所要時間の目安
ざっくりした国別比較 World Bank 5分
特定業種の産業規模 UNIDO INDSTAT 10〜30分
品目別の貿易額 UN Comtrade 15分
農業・食料の生産量 FAOSTAT 10分
ASEAN域内の詳細指標 ASEAN Stats 10分
アジア全体の経済指標 ADB Key Indicators 10分

有料の市場調査レポート(1本50万〜200万円)を購入する前に、これらの無料データベースで市場の全体像をつかんでおくと、有料レポートのどの部分に投資すべきかも判断しやすくなります。


【出典】


調査者について

木下隆志 — 株式会社タイトンマイ代表

  • 大阪大学大学院 経済学研究科 修士課程修了

  • シャープ株式会社の調達部門に8年間勤務

  • うち2年間はタイ工場に駐在、調達課長として現地スタッフのマネジメントを担当

  • 日本人管理職は自分一人の環境で、英語・タイ語での調達実務を経験

  • 独立後、80カ国以上・10,000社以上の企業調査を実施


https://taitonmai.co.jp/column/20260215_03/